紫陽花や昨日の誠今日の嘘
「今回も勝ちに行く」
方針が一方的に告げられる。
「そして我々司令部が受け持つ戦車大隊だが、A中隊、B中隊、C中隊の3中隊1大隊だ。」
よくいつも同じ連絡事項なのに初めてのことのように通知するな。もう私たちの国にはこの戦車大隊しか残っていないのに。
仕方ないか。もう限界戦線だ。海を渡った東もこっちと同じ現状と聞くし、もうこの戦いもおしまいだろう。北のほうにはまだ戦力を持つ国が複数あると聞くが、本当だろうか。
こんなのがまた来るなんて。いや、知っていたが。
「またこの時期がやってきたのか」
「…いつものことだ、少佐。」
心の声を読まれたのかと思った。どうやら無意識に言葉にしていたようだ。
即座に返答した中佐は何事もなかったようにオムライスを食べている。
私よりも経験があるからか。そう納得するしかないほどの無表情。中佐がいる食事会はいつも静かだ。傍から見たら異様なこの光景は半年に1回訪れるのであった。
いつものが始まって数日。
私は司令部として仕事はするが、どうにも勝てる気がしない。3日目の終わりにして周りもようやく気付いたのか、中佐と少佐が話していた。
「もう最後の大隊。中隊ごとに出身は違うわ考えも違うわでやはり大隊とは言えない。」
「やはりこの国は勝てないのでしょうか。」
「このままでは勝てないだろう。しかし降参はできない。隣国とやれないか話をもっていく価値はあるかもな。」
「…いけるか?」
「行ってきます。」
どうにかなりそうなのか?少佐は顔色が悪いし、仲が良いとはいえ声がかけづらい。中佐は論外だ。勘弁。
私も余計なことに顔を出している余裕はない。手伝いをしてくれる犬も元気がなさそうだ。今日は帰るか。
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「やはり継続は不可能か?」
「私は限界です。」
「Aの小隊長も不調だ。」
「あきらめるか…」
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まだ4日目か…
(どうやら司令部内は相当消極的なようだ)
司令部が死にかけなのは正直いつものことだし、正直初めから2週間も乗り切れる気はしなかったがそれは置いといて雰囲気は悪い。
「もう一度勝ちに行く。」
これは起死回生の一手なのか。
しかし残念ながら私が聞いた言葉はこれが最後だった。
戦闘に出たまま、中佐と少佐は帰ってこなかった。
残された私が何をしなければならないのは、また別のお話である。
紫陽花や昨日の誠今日の嘘
goritato